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心音を録音してみた、595円のピエゾピックアップ編

1年ほど前に公開した「心音を録音してみた」という投稿へのアクセス数が地味に多い。結構気になっている人がいたんだなという発見もありつつ、当該記事の解決方法が「コンデンサーマイクを思いっきり胸に押し当てるだけでも意外と録れるわ!」であったので、ちょっと申し訳なかったりもする。


さて、この度フィールドレコーディングに使えそうなコンタクトマイクを2つほど購入した。なんとその合計額はたったの1,300円。一つはクリップ型のマイク(698円)、もう一つはピエゾピックアップ(595円)

クリップ型マイクは、録音対象を挟み込むことで物理的な振動を直接検知するもので、本来は楽器チューナーと組み合わせて使用されることが多い。弦の振動のみを検知できるので、周囲の騒音に影響されずにチューニングが可能になるという利点がある。

一方、ピエゾピックアップは、楽器の振動を拾って電気信号に変換し、録音や増幅に利用することを目的とした装置である。本来はアコースティックギターやバイオリンなど、接触振動の取り出しが有効な楽器に貼り付けて使用する設計となっている。実際のレコーディング現場では、ピエゾピックアップで拾った楽器本来のドライな振動音と、リボンマイクで拾った空間の響きを伴う自然音をミックスすることで、より芯があって実在感のあるサウンド作る、というような使い方がされる。

チューナーマイク(左)とピエゾピックアップ(右)

そもそもコンタクトマイクとは、空気中を伝わる音波ではなく、物体そのものの振動を検知するマイクの総称である。音を “空間的に” ではなく、 “接触点を通じて” 取得する点が特徴だ。この観点から見ると、以前行ったようにコンデンサーマイクを胸に強く押し当てて使用しても、それは擬似的な接触であって、本質的には空気振動も含んだ録音になってしまう。マイクと体の間にあるわずかな空間が、呼吸音や衣服の擦れる音などの不要な情報を含んでしまうからだ。その点、コンタクトマイクを使用すれば、より直接的に、皮膚や筋肉、骨を通じた振動――たとえば心音のような信号――を録音できる可能性がある。


というわけで今回は、購入したうちのピエゾピックアップの方を、聴診器のような具合で胸に当てることで録音を試してみる。

どうでしょうか。以前レコーディングしたものよりも、低音が轟々と暴れるような感じは抑えられ、鼓動のアタックやリズム感がよりドライに、明瞭に録れている印象がある。しかも、これは595円のマイクで録られたもの。この録音結果はコストパフォーマンスの観点からも極めて優秀だと思う。

ただし、それが「心臓そのものの音」かと言われれば、やはりそれはやや誇張された表現である。正確には、体表面に伝わってきた複合的な身体振動の一部を、間接的に捉えているに過ぎない。ま、個人的には逆にその方が “ロマン” がある気がする。いずれにせよ、空気音とはまったく異なる性質の “物理的な実在としての音” を記録できるという意味で、コンタクトマイクにはフィールドレコーディングにおける独特の可能性が秘められている。


余談だが、ピエゾピックアップ見た目こそ聴診器と似ているものの、その仕組みは全く異なる。ピエゾピックアップは圧電素子(ピエゾ)を内蔵した電子部品で、物体の振動を検知し、それを電圧変化に変換して出力する装置である。電源は不要だが、適切なインピーダンスの入力を持つ録音機器が必要となる。対して、聴診器は完全に機械式の音響装置である。振動を集音し、チューブを通して耳に届けるだけの構造で、電気的な信号変換は一切行われない。構造としては、むしろ糸電話に近いとさえ言える。

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